Lerarning 在庫管理勉強会

─ 第2章 ─

何故在庫改善は失敗するのか?

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在庫改善はダイエット?

ある企業経営者がおっしゃておりました。
「在庫改善は毎年行っている。毎回それなりの効果は出ているよ。」

実際に在庫改善を本格的に行う前の在庫水準と、最近の在庫水準のデータを比較して頂くとほとんど結果は同じでした。アイテムによっては増加しているものまでありました。「5年前と比べて取扱いアイテムが増えているのでそれは仕方がない。」ということもおっしゃておりました。

確かに毎年在庫改善のプロジェクトを実行し、5年前と比べてアイテム数が2倍近くになっているにもかかわらず、同水準というのはその成果かもしれません。改善プロジェクトを実行していなければ、現状は悲惨な状態であったことも予想されます。

しかし、毎年在庫の改善を行わなくてはならないというのは、結局のところ、改善されたはずの在庫をその水準で維持出来ていないということにほかなりません。

改善後2、3ヵ月は在庫水準を20%近く低減させているのですが、半年後には元通りです。経済産業省の調べでも企業全体の在庫率は5年前とほぼ変わりません。特定の企業だけをみると在庫削減に大きな成果を上げられた企業もあります。しかし全体でみると結局5年前と同レベルということになります。あなたの会社でも毎年同じように在庫削減目標が経営計画に掲げられているのではないでしょうか?

在庫改善とはその時だけのプロジェクトではなく、その水準を維持するシステム構築でなくては意味がありません。

皆様のお知り合いでいつもダイエットをされているという方をご存じないですか?
その方は必ずダイエットとリバウンドを繰り返されていると思います。一度ダイエットに成功すれば、その体重を維持することで2回目のダイエットは必要ないはずなのですが…

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現場を無視した理論の押し付け

在庫管理の本を読んでいると色々な計算式が出てきます。
簡単なものから、理解し難い難解なものまで様々です。経済的発注量の求め方やABC分析による発注方法の決定など。特に自動発注などで利用される需要予測などになるとゴンペツル曲線、単純移動平均法、指数平滑法・・・既に何の本を読んでいるのか分らなくなってしまいます。

しかしこれらの理論は当然それぞれに意味があり、実際に実践で用いて上手に活用されている企業があるのは事実です。

私も以前、需要予測の計算式をアイテム毎に使い分け、在庫、欠品を効果的に減らされている企業にベンチマークさせて頂いた事があります。しかし当然、これらの理論は全ての業種、現場で効果的に使用出来るわけはなく、物流コンサルタントなどの偉い先生方による理論の押し付けに翻弄されている現場が数限りなく存在することも、これまた紛れもない事実です。

在庫は減ったけど欠品が明らかに増えた、補充主体の流通業の理論を製造業に押し付け、生産現場を混乱に陥れたなど、理論を導入する前の方がよかったという声もよく聞かれます。

やはり一番大事なのは、それぞれの理論の特性を把握し、いずれの理論もメリット、デメリットの二面性をもっているという認識の下で、現場の方と話し合い、頭でっかちな理論改善にならぬよう心がけることが大切だと思います。

もし在庫管理を改善するプロジェクトの担当になられたあかつきには、使う使わないは別にして色々な理論を勉強し、自社と同業種以外の在庫改善もベンチマークに回り、広い視野で自社の現場分析を行うことから始めてみてはいかがでしょうか。

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マネジメントの失敗による政策在庫の山

在庫改善は何故失敗するのか!?
この章の最後に在庫の管理方法とは関係のないところでどうしようもなく、在庫が増えてしまう原因をご説明したいと思います。

例えば年末のセールに向けて大量の商品を発注しないといけないとします。当然この場合、前年の売上実績を元に入念に需要の予測が行われ、各商品の発注数量が決定されます。しかしこの需要予測が大幅に狂うとどうなるでしょうか?

当然在庫の山となり、あとは処分の方法に頭を悩まされることになります。また製造業などでは製造上の様々な制約がある為、政策的な判断が必要となり、本当に必要な補充タイミング、補充数量とは異なる調達を要求されることも少なくありません。

前章でも少し出てきましたが、このような在庫を政策在庫と言います。
あきらかにマネジメントの失敗により発生した在庫についてはいくら優れた在庫管理を行っていたとしてもどうしようもありません。このような意思決定ミスを在庫管理の担当者に押し付けられたのでは、その担当者もたまったものではありません。

これからは在庫をマネジメントする時代です。
優れた在庫管理だけではコントロール不能です。

在庫をマネジメントする意識を持つことで初めて在庫最適化への道が開けてくるのです。